「「アニマルウェルフェア」の成り立ちを一から聞いてみよう!!

ヨーロッパ各地のスーパーを訪ねて見えてきた、最新の動向とは?」

【日時】 2021年12月2日(木)18:30-20:00

【ゲスト】日本獣医生命科学大学 植木 美希 教授

※ 本記録は、当日のセミナーから一部の内容を抜粋した構成となっています。

 

池嶋

Better Life for Farm Animals Japan の池嶋と申します。本日は、お忙しいところ沢山のご参加ありがとうございます。

Better Life for Farm Animals Japanは、2021年7月にイギリスの国際NGO Compassion in World Farmingの助成を受けたことをきっかけに発足しました。日本での家畜のアニマルウェルフェアの取り組みを応援していくことを目的に活動しています。

本日は、日本獣医生命科学大学 植木 美希 教授をお招きして、アニマルウェルフェアの成り立ちを聞いてみたいと思います。コロナ以前に植木先生がヨーロッパ各地を訪ねて見てきた現地の状況なども含めてお話いただきたいと思います。よろしくお願いします。

 

植木

本日は、夜の開催ということで、一般の方にも気軽に聞いていただけるような内容にしたいと思います。コロナ前の10年間ほど、特にフランスに力を入れて調査してきました。フランスでは、アニマルウェルフェアだけではなく、有機畜産や有機農業に対するニーズが非常に強くなっています。アニマルウェルフェアの指標として分かりやすい卵や鶏肉を中心に話をしてみたいと思います。

 

EUでは、アニマルウェルフェアが非常に進んでいます。2012年にはすでに従来型の狭いバタリーケージで採卵鶏を飼うことは禁止されました。生産方法だけではなく、消費者にわかるように生産方法を表示することで、アニマルウェルフェアが大きく進んできました。食品表示が重要な役割を果たしていることも本日はお話したいと思います。

 

まず、アニマルウェルフェアの歴史を紐解いてみたいと思います。

イギリスが最も早いと言われていますが、1822年には、牛の虐待防止法が制定されました。法律の制定に関わったマーチンという方が、イギリスで最も古いアニマルウェルフェア団体RSPCAの設立にも関わっています。1911年に動物保護法ができています。

1964年には、イギリスのルース・ハリソンが「アニマル・マシーン」という本を出版しました。農薬などの被害を訴えたアメリカのレイチェル・カーソンの「沈黙の春」出版に刺激を受けて、畜産版として第二次世界大戦後に急速に進んだ畜産の工業化の問題点を鋭く描き出しました。単に家畜の飼い方だけではなく、食べ物とは何かということまで書いているのが非常に素晴らしいと思います。

こちらはルース・ハリソンさんの書いた「アニマル・マシーン」です。残念ながら日本語版は絶版になっています。英語版は、新しい版も出ていてイギリスの大学の先生なども文章を寄せています。

この本の出版を受けて、イギリスではブランベル委員会が立ち上がり、今のアニマルウェルフェアの定義となるFive Freedomsのもとができました。

そのような動きの一方、畜産の近代化はどんどん進んでいきます。家畜を大きくする、卵を毎日のように生まなければならない、畜産を工業化する流れは変わらないままでした。

しかし、1986年にBSEが発生しました。BSEの発生はヨーロッパで大きな問題となりました。2001年には日本でも発生し、牛肉の消費量も一気に落ち込みました。EUでは、畜産システムの見直しに本格的に取り組むようになりました。

1999年、「家畜は感受性のある存在/Sentient Being」ということがアムステルダム条約で謳われました。その時は、本条項には入りませんでしたが、2006年リスボン条約では「動物は感受性のある存在」ということが本条項に入りました。

今年2021年には、”End the Cage Age”という欧州市民イニシアティブで、家畜のケージ飼育をやめることをEU市民が要求し、それが通ったという大きな動きがあります。2027年には家畜のケージの飼育をなくす方向に動いています。

(写真はインターネットの無料サイトから転載しています。)
少し詳しく見ましょう。写真はBSEですね。

BSEに感染すると、農場の牛全頭を処分しなければいけませんでした。本当に多くの牛が処分されて、処理場では間に合わずに野焼きをしていんたですね。それが地平線を真っ赤に燃やすよう光景がニュースになるなど、BSEで世界中が震撼しました。

その結果、食べ物はどうあるべきか、畜産の飼育方法はどうあるべきかを真剣に考えなければならなくなったと思います。

 

次にEUの動物福祉政策の軌跡についてです。

BSEの発生と同じ頃、1986年バタリー採卵鶏の保護基準が出て、99年には、2012年にバタリーケージを禁止することが決まりました。雌豚のストールも2013年に禁止されています。

「アニマル・マシーン」の著者ルース・ハリソンも、イギリスのCIWFでもスタッフだったことがあります。イギリスのアニマルウェルフェア団体は今も世界の動きを牽引しています。

RSPCAは、アニマルウェルフェアのフリーダムフードという認証を1990年頃に初めて作っています。CIWFは、End the Cage Ageのリーダーを務めるフィリップ・リンベリーが代表でもあります。

歴史のある団体があり、アニマルウェルフェアのあり方や動物の飼い方を考えているのが今のイギリスです。

 

 

イギリスではアニマルウェルフェアが盛んで、1980年代くらいからある程度規模の大きい放牧養豚で、初めて経済的に成り立ったのがヘレン・ブローニングという方です。2000年代初めに日本に招待したことがあります。先駆的な放牧養豚の話を伺ったり、現地にも何度か訪ねたりしました。イギリスの有機農業団体ソイル・アソシエイションの代表も何度か務められてもいます。

アニマルウェルフェア(動物福祉)を考える時に、アニマルエシクス(動物倫理)との違いを考えることがあるかもしれません。

アニマルエシクスを追求すると、エシカル消費の普及につながってきますが、動物製品を食べてはいけないと考えてしまうかもしれません。世界的には、みなさんご存知のように、ベジタリアンは増加傾向にあったり、先進国では肉の需要の減少や大豆製品や代替肉の需要の高まりがあります。動物を食べることを前提に、食べるまではしっかりと動物の幸せと健康を考えて飼うことがアニマルウェルフェアだと私は考えています。

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