Asian Farm Animal Welfare Forum
“韓国と日本のケージフリーの今”報告レポート

東北大学  但 申

2022年12月10日に韓国のKAWA(Korean Animal Welfare Association)のNate Paikさんを招いて”韓国と日本のケージフリーの今”という題名のウェビナーを開催した。KAWAは設立20年、会員が2万以上いる韓国のアニマルウェルフェア関連団体としては最大規模であり、産卵鶏をはじめ様々な動物のウェルフェアに関する活動に関わっている。

まず講演者のスタッフであるNate Peikさんに活動内容や韓国の産卵鶏のアニマルウェルフェアの現状について紹介してくれた。韓国では従来鶏卵生産でバタリーケージ様式が主流であった。そのなかで2017年に販売された鶏卵の殺虫剤(フィプロニル)による汚染という事案がきっかけとなり、社会全体の鶏卵の食品安全への関心が高まった。養鶏場での衛生環境への配慮から、ケージのサイズの拡大化が進められた(0.05m2から0.075m2)。そうしてできた改良ケージでは従来と比べ0.5倍ほど一羽当たり面積が増えたが、エンリッチメントが施されたいわゆるエンリッチドケージとは異なる。さらにケージフリー様式(平飼いもしくは放し飼い)が注目されるようになった。KAWAでの働きかけもあり、韓国の大手食品小売店のPulmuoneやGalleria Department Storeを始め、複数の企業が取り扱う鶏卵のケージフリー生産への転換を推進している。Pulmuoneでは2025年までにケージフリー卵のシェアを50%まで、Galleriaは2023年までに100%に占めるようにすることを目指している。また韓国は台湾と同様に卵殻上に生産時期や場所とともに飼養様式について印字をしており、これにより飼養様式の違いを一目で見分けられる (1:放し飼い、2:平飼い、3:改良ケージ( 0.075m2)、4:従来ケージ(0.05m2))。もう一つの取り組みとしては鶏卵の包装の上に行政により承認を受けたアニマルウェルフェアの認証マークが表示されるようになったことである。鶏卵では2012年より、ほかの畜産物も2013年以降そうしたウェルフェア認証が設立された。KAWAは1000人に対してアンケート調査を行った結果、ほとんどの消費者(94%)は卵殻の印字に関して知っているが、印字で表示されている養鶏に関する情報について正確に把握しているものはごく一部(6%)であった。およそ半分の回答者はニワトリの飼養方法を考慮しながら鶏卵を選ぶと答え、またウェルフェア認証を受けた鶏卵に対して従来鶏卵の平均で1.3倍の追加価格を払う意志があることがわかった。またKorea Institute of Animal Welfareにより約100名の養鶏業者へのアンケート調査を行った結果、およそ35%の生産者はアニマルウェルフェアについて取り組む意向があると回答した。鶏卵のアニマルウェルフェアに関して引き続き社会で周知させていく必要はあるが、日本と比べて韓国の消費者の養鶏のアニマルウェルフェアに関する関心が比較的高いと推測される。KAWAは今後もケージフリー様式やアニマルウェルフェア認証への認知度を高めるよう努めていくとNateさんは最後に結論付けた。

続いて本イベントの企画者であり、The Humane League Japanのカバリア(上原)まほさんが日本のケージフリー鶏卵の普及の現状について紹介してくれた。国内のアニマルウェルフェアへの社会的認知度がまだ低く、Business Benchmark Farm Animal Welfareによると多くの国内企業のアニマルウェルフェアに関する食品政策への評価がいまだに低い。しかし2017年以降明治ホールディングスや日本ハムなど10社以上の大企業がアニマルウェルフェア政策に参入しはじめ、またケージフリー鶏卵のブランド数やその商品を販売する店舗数が飛躍的に増えるなど、ポジティブな進展もみられている。とりわけケージフリー卵を使ったマヨネーズの人気が増しているようである。生産者へのアンケート調査により、国内の生産者の回答者の約7割が少なくとも国内でケージフリー様式が選択肢となると回答した。

前回の台湾のイベントに引き続き、アジアでの家畜アニマルウェルフェアに関して情報共有するためのイベントとして開催した。今回も東アジアや東南アジアをはじめ17の国や地域から申し込みがあり、参加者に恵まれたグローバルなイベントとなった。これを機に、Asian Farm Animal WelfareというFacebookのグループを創設した。このグループを拠点として今後も国境を跨いて参加者が意見を交わし合うようなオンラインイベントを開催していくのを楽しみにしている。