2023年4月10日
「持続可能性に配慮した調達コード(第2版)(案)」に対する意見書
氏名/Name
Better Life for Farm Animals Japan
意見/Opinion Statement
タイトル/Title
Animal Likely Left Behind@「いのち輝く未来社会のデザイン」2025年大阪・関西万博
Animal Likely Left Behind@“Designing Future Society for Our Lives” OSAKA, Kansai, Japan EXPO 2025
要求事項/Requirement
「持続可能性に配慮した畜産物の調達基準」に下記を盛り込むよう修正を求めます。
・ 採卵鶏のアニマルウェルフェアへの配慮として、卵の調達基準を平飼い卵とする。
※平飼いはエイビアリーを含む。
卵の調達において、全量を平飼い卵にすることが現実的でない場合は最低限の使用割合を示す。あるいは「賓客用ラウンジ」などの象徴的な施設では必須とするなどの実施策を示す。
理由/Cause
<概要/Outline>
1. 畜産の持続可能性への配慮の核心はアニマルウェルフェア
2. 基準案の不十分なアニマルウェルフェア対応
3. 欧米では脱ケージへの市民の強い支持
4. 採卵鶏のケージフリーは必須
5. 「いのち」がテーマの万博で、動物を取り残すことはできない。
1. 畜産の持続可能性への配慮の核心はアニマルウェルフェア
畜産の持続可能性への配慮の核心はアニマルウェルフェアです。
国連が提唱するSDGsの17の目標と169のターゲットに、アニマルウェルフェアの言葉はありません。しかし、193カ国すべての国連加盟国が加盟し、国連環境計画(UNEP)の意思決定機関である国連環境総会(UNEA)で、2022年3月ケニアのナイロビでアニマルウェルフェアに関する決議が採択されました。
「アニマルウェルフェアと環境と持続可能な開発の結びつき(筆者仮訳)」と題された決議です。決議では、アニマルウェルフェアの推進を通して、地球環境の課題に取り組み、“One Health”のアプローチを進め、SDGsの達成に貢献できるとしています。また、動物の健康やウェルフェアと持続可能な開発と地球環境は、人の健康や幸福に結びついていると明記されました。
UNEPリンクhttps://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/39731/K2200707-UNEP-EA.5-Res.1-ADVANCE.pdf?sequence=1&isAllowed=y
経済効率を最優先し、家畜を大量に過密に飼育する弊害は、水質や大気の汚染、地球温暖化、熱帯雨林の破壊、生物多様性の損失など環境破壊を引き起こしているだけではありません。抗生物質の大量使用による抗生物質耐性菌の発生や、人獣共通感染症の感染拡大要因になるなど、人の健康への脅威をももたらしています。
「いのち」をいただく畜産が持続可能であるために、まず配慮すべきことがあります。
家畜は、卵や牛乳や肉を作るためのモノや機械ではありません。2009年に発効されたEUの基本条約であるリスボン条約で定義されているように、感受性のある生命存在/Sentient Beingsです。
家畜が最終的な死を迎えるまでの飼育過程において、ストレスから自由で、行動欲求が満たされた健康的な生活ができる状態であること、つまり、アニマルウェルフェアへの配慮の具体策が必要です。
2. 基準案の不十分なアニマルウェルフェア対応
現行案では、「アニマルウェルフェアの考え方に対応した OIE(国際獣疫事務局)陸生動物衛生規約等に照らして適切な措置が講じられていること」を基準としてあげています。
アニマルウェルフェアへの対応は、OIE指針に基づくという農林水産省畜産振興課の意向に沿った対応と思われます。
しかし、企業や畜産業界や政治の影響の下、182ヶ国の加盟国の最低限の最大公約数しか決定できないOIEの基準では、アニマルウェルフェアへの配慮は十分でないと国際社会では考えられています。
日本では、OIEへ提言する採卵鶏の基準の検討段階で、鶏を狭いバタリーケージに閉じ込める飼育方法を容認するように、鶏卵業界大手アキタフーズから吉川貴盛元農林水産大臣に賄賂が渡されました。2022年5月、元農林水産大臣の収賄罪が確定したことは記憶に新しい事件です。
3. 欧米では脱ケージへの市民の強い支持
国際社会では、アニマルウェルフェアに配慮し、家畜を身動きのできない狭いケージに閉じ込める飼育方法からの脱却が進んでいます。
EUでは、2018年に始まった”End the Cage Age”という家畜のケージ撤廃を目指す欧州市民イニシアティブ(ECI)で、7カ国から100万人以上の署名を必要とする規定を遥かに超える140万人以上の賛成を得ました。これにより2021年6月、EU委員会は2023年末までに立法案を提出。2027年までにヨーロッパ全土で家畜のケージを段階的に撤廃するという歴史的な決定を下しました。
欧州委員会 保健・食品安全総局長 ステラ・キリヤキデス氏は、「私たちの約束は明確だ。家畜のケージを段階的に撤廃することは(欧州グリーンディール政策の一環の)Farm to Fork戦略の政策の一つである。そして、より持続可能な農業と食料システムを実現する。」と述べています。
アメリカでも、州単位で住民投票による変化が起きています。
2016年マサチューセッツ州では、Question 3と呼ばれる家畜の飼育に最低限の広さを定める提言が行われ、住民投票で約78%の支持を得ました。提言では「家畜が横になる、立ち上がる、完全に手足を伸ばす、自由に向きを変えることを妨げる」「残酷」な条件で飼育することを禁じ、そうした条件下で生産された畜産物を販売することも禁じています。
マサチューセッツ州やカリフォルニア州など、8つの州では州法によりバタリーケージの卵の生産と販売が禁じられ、その他2つの州では生産のみ禁止されています。
採卵鶏の飼育に90%以上バタリーケージを使用する日本では考えられない大きな変革が、今現実に世界で起きつつあるのです。
4. 採卵鶏のケージフリーは必須
鶏はケージの中では、ついばみ、砂浴び、止まり木での休息など、最低限の自然な行動欲求を満たすことができません。ケージ(バタリーケージやエンリッチドケージ)の使用をやめるのがケージフリーです。
採卵鶏のケージフリーは、肉用鶏、豚、乳牛、肉牛などあらゆる畜産のアニマルウェルフェアのなかでも、最初の一歩として取り組む課題と考えられています。畜産の持続可能性を謳うのであれば、最低限必要な基準ではないでしょうか?
5. 「いのち」がテーマの万博で、動物を取り残すことはできない。
2025年大阪・関西万博では「いのち」がテーマに据えられています。
<テーマ>
「いのち輝く未来社会のデザイン/ Designing Future Society for Our Lives」
<サブテーマ>
Saving Lives (いのちを救う)
Empowering Lives (いのちに力を与える)
Connecting Lives (いのちをつなぐ)
ケージフリーにさえ言及のない現行案では、アニマルウェルフェアに配慮したとは動物擁護団体からだけでなく、国際社会からも認められません。「いのち輝く未来社会のデザイン」から動物(家畜)は取り残さるとすれば、万博のテーマそのものを損なうことにならないでしょうか。国際社会から”Animlal Left Behind”と 批判を招くことも危惧されます。
畜産の持続可能性への配慮においてアニマルウェルフェアは核心です。アニマルウェルフェアへの取り組みの象徴として、最初の一歩の取り組みを明示することが必要ではないでしょうか。卵の調達にケージフリー、つまり平飼い卵を基準とすることを求めます。